ミャンマー・中国国境貿易の現状と展望

ミャンマービジネス最前線

概要:

2025年、ミャンマー・中国国境貿易は回復の兆しにある。中国は国境封鎖を外交カードに民族武装勢力と国軍双方へ圧力をかけ、停戦と貿易再開を主導した。「三兄弟同盟」は戦略的に分断され、カチン州でもレアアース確保のためゲートが再開された。2025年12月の総選挙後も、中国は自国権益を最優先としながら国境の安定化を図るとみられる。

●クーデター後、国境地帯は再び無法地帯に

ミャンマー北部(カチン州、シャン州)と中国(雲南省)との国境は、2,129キロメートルにおよぶ。歴史的に見ても両国の関係は深く、現在でもミャンマーにとって中国は最大級の貿易相手国である。シャン州北東部で中国と接しているワ自治管区やコーカン自治区では、人々は中国語を話し、日々の取引に中国の通貨を使っているほど一体化している。
ミャンマーから中国への主要輸出品は、コメ、豆類、ゴマ、種、トウモロコシ、野菜、果物、乾燥茶葉、魚介類、ゴム、鉱物などである。一方、中国からの主要輸入品は、機械類、プラスチック原料、電子機器などとなっている。両国の国境には、大小さまざまな国境ゲートが設けられているが、以下の3カ所の国境ゲート付近では経済特区の建設が計画されている。

1.ムセ・瑞麗間の国境ゲート
ミャンマーの国境貿易全体の約70%以上を占めるとされる、最も重要な国境貿易拠点である。タイとの国境のミャワディ・メーソート国境に比べて5倍以上の取引がある。ミャンマー第2の都市マンダレーとムセを結ぶ道路は、ミャンマーにとって生命線ともいえる物流の大動脈となっている。
2.チンシュエホー(清水河)国境ゲート
ムセ・瑞麗間のゲートに次いで2番目に大きい国境ゲート。シャン州ラウカイ群区に位置している。
3.カンパイクティ国境ゲート
カチン州特別区域1のミッチーナー県ワインモー群区にある。従来、このエリアは、ミャンマー軍と同盟関係にあるカチン新民主軍(NDAK)が管理していた。

2021年2月1日の軍事クーデター以降、国境地帯では各地で有力な少数民族武装勢力(Ethnic Armed Organizations:EAO)による反政府活動が活発化した。かつてゴールデントライアングルと呼ばれ、麻薬の生産や取引が盛んに行われていた国境地帯は、再び無法地帯となった。国際犯罪組織はこの状況に乗じて、次々に大規模な特殊詐欺拠点や違法カジノを開設し、中国はもちろん、世界中を相手に荒稼ぎするようになっていった。

●激化する内戦により国境貿易は停滞

2023年10月27日、ミャンマー北部ではアラカン軍(AA)、ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)、タアン民族解放軍(TNLA)からなる「三兄弟同盟」と呼ばれるEAOが一斉に蜂起し、ミャンマー国軍に対して大規模な攻勢を開始した。国境地帯の安定を望む中国が、犯罪組織の摘発に手をこまねいているミャンマー軍事政権を見限って、EAOを当面の交渉相手として認めたことが、結果として蜂起を誘発したと指摘する声もある。この「1027作戦」は、ミャンマー北部の戦局を一変させるものであり、国軍は「クーデター後、最大の後退」を強いられることとなった。

その後、国境地帯の大部分はEAOの支配下に置かれたが、激化する内戦は国境貿易の停滞を招き、地域経済に大きな打撃を与えることとなった。さらに軍事政権が、ミャンマーの他の地域からシャン州北部の町へのコメ、燃料、医薬品などの生活必需品の輸送を阻止したため、住民は中国からの供給に大きく依存するようになった。
カチン州では2024年4月、カチン独立軍(KIA)が、対中貿易拠点のルウェジェを国軍から奪取し、支配下に置いた。2024年11月頃までにはレアアース(希土類)の主要産地であるパンワ、ソーロー、チプウィなどの中国国境に近い山岳地帯もKIAに制圧された。

2024年7月以降、中国は国境地帯の治安悪化および武装勢力への圧力行使を理由に、10カ所以上の国境検問所を順次閉鎖していった。中国は、外交の表舞台では不干渉の立場を取りつつも、実際にはミャンマー軍事政権とEAOの双方に対して政治的、経済的影響力を行使しており、国境貿易は外交カードの一つとして重要な役割を果たしている。

2024年8月、中国はシャン州ナムティット国境ゲートを閉鎖した。ナムティットはミャンマー最大級の民族軍であるワ州連合軍(UWSA)によって支配されており、UWSAは「1027作戦」以降、中立の維持を表明していた。しかし、中国のアジア問題担当特使、鄧希軍氏が雲南省普洱市でUWSAの幹部と会談し、UWSAの支配地域から三兄弟連合の支配地域への食料や医薬品の輸送を阻止するよう強く求め、UWSAはこれに応じた。そして2024年10月、中国はシャン州モンラ国境ゲートを閉鎖し、コメ、医薬品、食料、消費財、機械油など反政府勢力が使用する可能性のある物資の供給を断った上で、さらに水道、電気、インターネットへのアクセスも制限した。

●緬中国境貿易は回復傾向に

中国は、攻勢を強めるMNDAAやTNLAに対し、シャン州北部での攻撃停止と支配地域の返還を迫り、物資供給を遮断する形で圧力をかけた。この介入により、かつて結束していた「三兄弟同盟」は戦略的に分断された。2025年4月には中国の仲介により、MNDAAが北東部シャン州の主要都市ラショーを軍事政権に返還することに合意した。レアアースなどの資源の確保を優先する中国と、総選挙を控えて経済の立て直しを図る軍政との思惑が合致したようだ。こうして、2025年に入ると、ミャンマーと中国間の国境貿易は回復の兆しを見せている。
中国の民間シンクタンクの調査によれば、2025年1月から10月までの両国間の貿易総額(海上貿易含む)は150億600万ドルに達し、前年同期比で7.7%増加している。特にチンシュエホーの国境ゲートは、2025年1~5月には前年同期比61.6%増の取引を記録した。ただし、貿易収支は依然として中国側の大幅な黒字(ミャンマー側の赤字)となっている。

2025年10月末には国境ゲートのいくつかが再開され、両国は国境管理の刷新、通商ルートの多様化、長期的な経済回廊構想の推進など、新たな段階への移行を模索している。2025年10月25日、中国政府はKIA支配地域にある複数の国境ゲート(ルウェジェ、カンパイティ、ライザなど)を約1年ぶりに再開した。カチン州のゲート再開は、米中対立の中で、戦略物資であるレアアースのサプライチェーンを維持したい中国側の強い意志が反映されている。再開後、食品や建設資材の輸出は許可されているものの、電子機器や燃料のミャンマーへの輸出は引き続き禁止されている。

2025年10月29日、中国の仲介により、TNLAは同年7月から占拠を続けていた宝石の産地で知られるモゴクや近隣のモメイクから撤収すると発表し、国軍がこれ以上支配地を攻撃しないことを条件に停戦にも合意した。その後、国軍は戦力を西部ラカイン州へ振り向け、同盟の一角であるAAへの攻撃を激化させている。

●今後の展望

ミャンマーでは、2025年12月末から段階的に総選挙を実施することが予定されている。だが、これは実質的な民主化ではなく、軍の影響力を維持しつつ対外的な承認を得るための戦略と見なされている。しかし一方で、中国やタイなどの近隣諸国は、この選挙によって成立する準民政政権を、国境の安定化と対話のための正当な窓口として利用しようと考えているようだ。

総選挙を控え、軍政は国内外に向けて、国境貿易拠点の「奪還」や「選挙実施可能地域」の拡大をアピールしている。だが、これらは中国の圧力によって実現した「見せかけ」の側面が強く、実態は代理勢力による支配や交渉による一時的な譲渡にすぎないとの見方も強い。すなわち、自由貿易の復活ではなく、中国が自国の安全保障と経済的利益を確保するために統制する「管理された貿易」への移行である。今後、国境貿易は徐々に回復していくと見込まれるが、物価高騰や物資不足に苦しむ国境地帯の住民への人道的な配慮は後回しにされており、潜在的な不安定要因として残っている。

発行: 2025/12/19
記事提供:Tokio Investment Co., Ltd.(Yangon, Myanmar)

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